「それはそれは…また、とんでもなく縁起の良さそうな初夢を、ご覧になりましたね」
 今年最初の部活帰りだった。
 俺の「御来光を拝みに富士山に登ったら、初日の出の方角から飛んできたデカい鷹に襟首をくわえられて運ばれていき、茄子畑の真ん中に落とされる」という夢を話したら柳生がほめてくれたんで、気を良くして俺も聞いてやった。
「そんじゃ、お前さんの初夢はどんなんだったんじゃ」
「それがですね…私、なんとも大変なのを見てしまったんですよ」
「タイヘンってどんな」と尋ねると、奴は真顔でこう切り出した。

「私がですね…真田君と幸村君の家の、嫁なんですよ…」

 よ・・・

「・・・め?」
「いや、よくわかりませんがあのお二人が、私の舅と姑らしいんですよ。それで夢の中でもお正月なんですが、畳の間に正座して『お義父様、お義母様、あけましておめでとうございます』って、挨拶してるんですよ。着物に割烹着で」
「なんじゃそりゃ…」
「こっちが聞きたいですよ! なんだか知りませんが真田君がやたら威張ってて偉そうなんです。なぜか真田君のところにいろんな学校の人がお年賀を持って来るんですね、青学の手塚君とか、四天宝寺の白石君とか…それで、幸村君が彼らにお酌してるんですけど、彼が一番先に酔っぱらってるんですよ。だから私が一生懸命フォローしてるんです、料理を出しながら。あ、ちなみに、幸村君も着物ですよ。でも既婚者のはずなのになぜか振袖でした」
「な、なんでまた、正月からそんな縁起でもない夢を」
「知りませんよ! それで、お客様が帰られてほっとしたかと思ったら、また誰か来るんですよ」
「誰が」
「それが、丸井君が桑原君を連れて来るんです」
「ブン太とジャッカルが?」
「ええ。なぜか、丸井君がこの家の娘さんなんですよ。もう家を出て彼氏と暮らしてるんですけどね」
「はァ? …それって、ジャッカルと?」
「はい…。ちょっと仁王君、そんな顔しないでください。夢だから仕方ないでしょう。丸井君が、ここのおうちのお嬢さんで私の義理の妹なんですが、『ゆっきー、ヒロぴょん、お年玉ちょうだい♪』って言って遊びに来るんですよ」
「相変わらず、夢でも図々しいやっちゃ」
「そうですね…どうもこのお二人がね、できちゃった婚らしいんですよ」
「うお、そりゃまたデラ図々しい!」
「で、真田君が例によってお説教を始めるので、桑原君がぺこぺこ頭を下げてるんですが、丸井君は知らん顔でずっとお雑煮を食べてて…あ、お餅は3個入っています」
「なんつーか…それ、いつもの光景じゃな」
「ホントですね。私も、夢の中で『これは、デジャヴュでしょうか』と思ったぐらいですから。でも丸井君はなんだか幸村君に可愛がられてるみたいで、幸村君が真田君を執りなしてくれてました」
「まさにいつもの光景」