「まあとにかく、あんまり肉、肉ってばっか言ってるのもちょっとどうかと思うな」
「あまり魚ばかりもいかがなものかな」
 蓮司と弦一郎が真正面からぶつかり、僕らは観戦体勢に入りました。こうなるとこの人たちはしつこいです。弦一郎は相手が息絶えるまでねちっこくいたぶりますし、蓮司は一旦負けたふりを装って油断させたところにものすごいカウンターを繰り出しますから、見ごたえがあります。
「近海ものの魚は確実に汚染されてるぞ」
「最近の肉は遺伝子組み換え大豆を食った牛が多いからな」
「DHAはサプリメントでも摂取できるだろう」
「なんか、肉が好きって野蛮な感じがするんだよね……」
 蓮司はこれ見よがしに、やたら丁寧にさばの塩焼きの骨から身を取りながらつぶやきました。緩急自在です。
「主観的なイメージでしか人を見られないのは、幼稚だな」
 今度は弦一郎が威圧します。久しぶりに緊迫したゲームになってきました。みんなわくわくして見守っていますが、赤也だけ血の気がひいています。まだまだ真の恐怖というものを知らないな、この子は。
「まあ、こんなところで肉だの魚だのでキーキー言ってること自体が、幼稚だけどな!」
 ほら出た、蓮司の意表をついた攻撃。いきなり話の次元をずらすとは相変わらず狡猾、というかかなりズルい。
「最初にこの話題を持ち出した人間は誰だったかな?」
 弦一郎も結構冷静だ。この勝負、長丁場にもつれ込みそうです。奴らはテーブルをはさんで視線で強烈な火花を飛ばしました。赤也がもうチビりそうです。飽きてきたらしい雅冶は楊枝を使い始め、ジャッカルと柳生くんはデザートを追加するつもりらしくメニューを開いて相談しています。僕は楽しくふたりを見比べました。この人たちが大人げなくやり合っているのを見るのは実に微笑ましいです。弦一郎も蓮司も普段は悟り澄ましたふうを装ってますが、実態はこんなもんなのです。
「ふたりとも、お茶いる?」
 僕はポットを取ってふたりの湯飲みにお茶を注いであげました。ふたりはなんとなく気まずそうになって僕を見ました。
「お前は、魚が好きなんだな……」
 弦一郎が僕の前の皿を見て打ちのめされたように言いました。僕は「うん」と大きくうなずいてから、言いました。
「でも、弦一郎が好きななめこのおみおつけは、僕も好き」
 そう言ってあげると、彼は多少毒気を抜かれたように「そうか」と言ってお茶を飲みました。
 僕も一応部長なので、こういうことにかけては任せてください。……と言ったそばから今度はブンちゃんが口火を切って「味噌汁の具は何がいいか大会」が始まってしまい、またもやテーブルに嵐が吹き荒れるのですが今日のところはこのへんでリングサイドから皆さんさようなら。