電車は池袋を超え、高田馬場を過ぎる。
「発車メロディーって、駅によって違うんだね。高田馬場の発車メロディーは面白いね。鉄腕アトムの曲だ」
 俺は気の利いた返事が出来ないので、たまに幸村が話し、俺は適当に頷いて返す。
 しかし、なんでこんなに幸村は幸せそうに笑うんだろう。
「時間があると、色々発見できていいね。きっと健康で普通に時間に追われて暮らしてたら気づかなかった……」
 窓の外を見ながら、幸村が呟く。また心地の良い沈黙が続く。
 電車が新宿に止まると、ドッと人が乗り込んで来た。老夫婦が乗り込んできた。
「どうぞ」
 と言って、幸村が立ち上がり席を譲ろうとする。慌てて俺は立ち上がる。
「お前、病人なのに…」
「僕は若いから大丈夫大丈夫。どうぞ座ってください」
「すいません」
 俺の席を譲ろうにも、相手は夫婦二人連れだ。結局、俺の座っていた席も譲ることになる。
 幸村がドア付近に移動する。
「分かってるのか?お前は今、優先席に座ってもいいくらいなんだぞ」
「大丈夫だってば。リハビリリハビリ」
「今度席空いたら、ちゃんと座れよ。人に譲るな」
「分かった分かった」
 人の気も知らないで、とはまさにこのことだ。電車が揺れる。思わず、幸村が倒れないように腕を掴まえる。
「もー、真田は心配性だなー」
「だったら心配させるな」
 俺はぶつぶつといつまでも説教する。
「あ、ねぇ、見て。原宿駅の明治神宮側のホーム、降りられるのは年末始だけなんだってね」
「話をそらすな」
「そらしてないよ。降りてみたいな。降りてみたくない?なんだか今年はいっぱいお参りに来なきゃ。
 そうそう、病院の近くの神社にもお礼のお参りに行かなきゃね」
「あぁ?」
「ブン太に聞いた。みんなでお参りしてくれたんでしょ?僕を助けてくださいって。
 全財産投げ入れて、歩いて学校まで戻ったって」