「御徒町って、湯島天神があるんだよね。学問の神様。
 みんなで来年はお参りに来なきゃね。一応、僕達受験生だし」
「受験といっても、上の高校にあがるだけだから楽なものたけどな」
 俺達の学校は、小中高大と一貫の付属中学だ。受験とは名のみの内部受験のテストは一応あるが、よっほどやらかさなければ、全員上に上がれる。
「うーん。そうだと良いんだけど。僕はたくさん休んでるから、みんなと一緒に高校に入るのは難しいかもしれないなぁ……」
 幸村は気にしていない様子でそう言った。
「事情が事情だし、幸村は成績も良い。大丈夫だろう」
「そうかなぁ?真田、僕の先輩になってもいじめないでね?」
「いじめる訳がないだろ」
「やっぱりそうなったら、みんなのこと、先輩って呼んで敬語使わないといけないのかな」
「そんなことあるはずないだろ。もし、そんなことがあれば、俺が……」
「責任もって学校に掛け合ってくれる?」
 言葉の途中で幸村が楽しそうに口を挟む。
「もしそんなことが本当に起きたら、みんな黙っていない。全員で掛け合ってやる」
「結束の固いテニス部で嬉しいよ。とりあえず、退院したら僕一人だけでも、天神様におまいりに行かなきゃ。みんなと一緒に高校に進学させてくださいって。その前に、中学卒業させて下さいってお願いするのが先かな」
 幸村はそういって、くすくす笑う。
「その時は俺も一緒に行く」
「わー、僕をどこにでも連れてってくれる?」
 どこにでも連れて行ってやる、というのが俺の口癖だ。
 電車が次の上野駅に到着する。
「上野って大きな公園があって、美術館がいっぱいあるんだよね。行ってみたいな……」
「降りてみるか?」
 戻らなきゃいけない時間が決まっているので、そんなに沢山は時間はないが、公園を散歩するくらいの時間はある。
「ううん。退院したらの楽しみにとっておく。
 楽しみだな。退院したら、たくさん行きたい所がある……」
 窓の外を見ながら、幸村は独り言を言うようにつぶやく。
 俺は、幸村が「未来の話」をすることになぜだかとてもほっとする。
「本当に調子の悪い時、もう何処にもいけないんだ、と思って。いろんなところ、行っておけば良かったって、すっごく思ったから。
 次は鶯谷(うぐいすだに)か……、綺麗な名前だよね。昔、鶯がいっぱいいたのかな?今はいないよね。こんな東京の真ん中に」
 幸村が楽しそうにしているのを見るのが、俺は嬉しい。
 元気になった幸村と、いろんな所に行けたら楽しそうだなぁと思う。
 幸村と一緒に行きたい所………。
 少し考えてみたけれど、テニスばかりで遊びを知らない俺には行きたい場所がすぐに思いつかない。
 思いつくのはテニスのことばかりだ。また幸村と一緒にテニスが出来たら良いなぁと思う。 


 電車は都会の中を走っていく。