俺達は同じ学校の部活のレギュラーの仲間とはいえ、同時にライバルだったため、技や戦略の話などに関してはどうしても秘密主義の所があった。
 でも幸村には、誰も秘密に出来なかった。
 幸村は見舞いに行くと、必ず「部活はどう?」とじっと目を覗き込むようにして聞く。誰もそれに嘘をつけない。まっすぐの視線に答えるように、みんなが進んで自分のテニスのことを話した。
 難易度の高い技が決まるようになったこと、新しい作戦を考えたこと、そんな話をうんうんと目を輝かせて聞く幸村に得意気に話した。


   ある日、病室に俺以外の誰もいない時、幸村は突然、思い出し笑いをして、
 「きっと今、僕が一番、みんなの弱点とか得意技とか詳しいね。みんな進んで自分から弱点を教えてくれるんだもの」
 と言った。俺は黙って頷く。
 「きっと今、みんなと試合をしたら、僕の全線全勝だよ。
 あーあ、早く、みんなと試合がしたいよ」
 とても楽しそうにそう言った。
 「ああ、きっとそうだな」
 俺はしみじみ同意して頷く。
 幸村はやはり、立海テニス部の部長だ。





 「ねぇ、山手線ってさ、「やまのてせん」って読むのが正しいのかな。それとも「やまてせん」が正しいのかな?」
 突然、質問を振られる。
 「さぁ……どっちだろう?」
「どちらも人が言ってるの聞いたことあるよね。どっちが正しいのかな」
「駅員に聞いてみたらどうだ?」
「アナウンスの車掌さんが、どちらも言ってるの聞いたことあるよ。この電車の車掌さんは「やまのてせん」って言ってる。
 あ、次の駅は、御徒町だって。「おかちまち」とは読めないよね、あの文字は」
 幸村はただ電車に乗ってるだけなのに、とても楽しそうだ。
 電車はのんびり都会の町並みの中を進んで行く。