電車は揺れる。
 さっきから幸村は少し上の方を見つめながら、何かぶつぶつ呟いている。
「………品川………田町……浜松町……」
 ドアの上に設置された駅案内を小さな声で読み上げているらしい。
「なんだ?」
「うん?覚えてるの。駅の名前」
 幸村がにっこり微笑む。
「うん。大体覚えた、と思う。これで、次に山手線一周ゲームをブン太とやっても、僕は勝つよ。リベンジ」
 幸村はちょっと得意気にそう言った。
 幸村はおとなしい顔に似合わず相当の負けず嫌いだ。
「………看護婦にまた叱られるぞ」
「アレは病室だったから怒られたんだよ。今度は中庭か屋上でやるから大丈夫」



「俺、練習試合16連勝中!!!」
 ブン太が得意気にVサインを見せる。
「俺も12連勝中っす!!!」
 赤也が対抗心を燃やす。
「凄いね!!!今年も立海は向かう所、敵なしだね!!」


 俺達が見舞いに行くと、必ず試合でどこの学校の誰に、うちの誰かが勝ったという話になった。
 自分の出られない試合の話。幸村は部活の成績の話をいつも自分のことのように喜んで聞いていた。