しばらくして、俺達は幸村のいる集中治療室に呼ばれた。
幸村の母親らしき年配の女性が、酷く泣きながら、
「意識はもうないの。順番に手を握ってあげて」
と言った。
ベッドの上には酸素吸入器をつけられ、色々なチューブと機械に取り囲まれた幸村がいた。まるでドラマの中みたいにその光景は非現実的だった。ベッドの上に横たわった幸村の体はひどく小さく見えた。
「ウゥゥッ、ウェッ……」
ブン太と赤也はもうボロボロに泣いていた。
「……ここで騒ぐなよ、ブン太」
泣きながら桑原が丸井に囁く。
柳から順番に幸村の手を握る。俺の番が来た。強く握って良いのか、分からなかった。熱があるのか、細くて暖かい掌だった。
「ユキぃ………」
最後に手を握った丸井はぐちゃぐちゃに泣きながら幸村の手を離さなかった。
「ブン太、行くぞ」
桑原がベッドの横に跪いて祈るように手を握る丸井の肩を叩く。丸井はしゃくりあげながら、首を振る。その場にいた幸村の親族達が、その様子にまた涙する。
「丸井、行くぞ」
俺は丸井の襟首をつかんでむりやり立たせて、そこから引きずり出した。
無言でまた待合室のソファーに座る。その頃には俺以外の全員が、もう憚ることなく泣いていた。
赤也とブン太が抱き合ってワンワン泣いていた。
みんなとにかく悔しそうに泣いていた。何にも出来ないのがとにかく悔しかった。
気がつくと俺も泣いていた。
俺達は死なんか身近に感じたことはなかった。
初めて身近に感じた死は、あまりに突然で暴力的だった。
幸村の教師は相変わらず公衆電話でどこかに電話していた。
やっと電話を置くと、俺達に、
「先生はこれから学校に戻らなきゃいけない。
お前達はどうする?」
と聞いた。
俺はこいつに家まで送って貰うのは絶対願い下げだ、と思ったので、
「自分達で帰ります」
と答えた。
教師は駆け足で幸村の親族に挨拶し、学校に戻って行った。