病院の待合室で、しばらく俺達は待たされた。
 誰もが俯いたまま、肩を落として床を見つめた。
 「どうしたんだよ……ユキ………」
 丸井だけがぶつぶつ何時までも何かを呟いていた。無言で隣に座った桑原が丸井の肩を励ますように叩いた。
 待合室に置かれた公衆電話で、幸村のクラスの担任教師が次々と誰かに電話をしていた。
 静かな受付時間外の病院の待合室で、その電話の内容は丸聞こえだった。
 「うちのクラスの幸村君が危篤で………」
 電話の内容はすべて同じ内容だ。「幸村が危篤」という単語が何度も会話の中で繰り返され、ただ俺はその声に、言葉にとにかくイライラした。
 俺は無意識に自分の太腿をずっと拳で殴っていた。
 柳は時計ばかりを見ていた。柳生はずっとため息をついていた。仁王はいつもにまして不機嫌な顔だ。
 俺達は時間外の誰もいない待合室で、訳も分からず、ただとにかく不安と共にいた。


 何時間にも感じられる数十分が過ぎて、幸村の親族らしき女性がやってきた。その女性はひどく泣いていた。
 「みんな、わざわざ来てありがとう。ごめんなさいね」
 号泣しながらその女性は俺達に頭を下げた。
 「ユキはいったいどうしたんですか?」
 不安に耐え切れなくなった丸井が声を荒げて聞く。
 「馬鹿!!ブン太、黙ってろ!!」
 柳生が慌てて叱る。
 「分からないの………」
 その女性が震える声で答える。
 「分かんないって!?」
「ブン太!!!やめろ!!」
 なおも詰め寄る丸井を桑原が止める。
 「本当に分からないの……。あまりに突然のことで………」
 ぽろぽろ涙が頬に落ちる。
 パーンと軽快な音がする。無意識に俺は丸井の頬を平手で力いっぱい殴っていた。
 そのまま床に倒れた丸井が、悔しそうな顔で俺を睨む。丸井に背を向けて、その女性に深々と頭を下げた。
 「申し訳ありません」
 深く頭を下げて謝る。
 その女性は軽く頭を下げて、戻って行った。



 俺がどかっと音を立てて、再びソファーに座ると、他のメンバーも次々とソファーに腰を下ろした。
 丸井が悔しそうな顔でしばらく唇を噛んでいたが、そのうちそれはすすり泣きに変わった。
 赤也もつられたのか、声を上げて泣き出す。二人の泣く声はどんどん大きくなった。
 丸井の肩に手を置いた桑原が天井を見上げて涙をこらえていた。
 教師は相変わらずどこかに電話をしていて、「幸村が危篤」を繰り返している。
 俯いた柳の膝に涙が落ちた。仁王は不機嫌な顔のまま、目をひどく赤くしている。柳生は眼鏡を外して悔しそうに涙を拭いた。
 俺はまだ何が起きたのか理解出来ず、ただとにかくイライラしていた。