幸村が発病したのはあまりに突然だった。


 「ちょっと熱っぽくて、関節が痛いんだ」とか部活の時、ちょっと辛そうな笑顔で言ってた、その翌日から三日間、幸村は学校を休んだ。
 俺達は単なるごく普通の風邪だと思っていた。

 幸村が学校を休んで三日目の部活中、突然コーチが「幸村と仲の良かった奴来い」と言ったので、俺達、レギュラー陣がコートを離れて、コーチが言う通りに職員室に行ったら、幸村のクラスの担任の教師が、とても複雑な顔をして、
 「幸村が危篤だそうだ。幸村のご家族が仲の良かった友達に最後に来てやって欲しいと言っている。お前達行くか?」
 と言った。
 「キトク?」
 丸井がとても間抜けな声を上げた。
 あまりに突然のことで、教師が何を言っているのか良く分からなかった。
 「幸村は事故にでもあったんですか?」
 少し早口で柳が聞く。
 「詳しくは聞いていないが、事故ではないそうだ」
「キトクってなんだよ?」
 信じたくないという顔で丸井が隣の桑原に聞く。
 「死期が近いってことだ」
「なんだよ、それ。一昨日まであんなに元気だったじゃん!!!」
 興奮した丸井が桑原に掴みかかる。
 「分からない」
 その手を桑原が振り払う。
 「とにかく行けば分かるじゃろ!!」
 仁王が不機嫌な顔で怒鳴る。
 「赤也も行くか?」
 ついてきていた赤也に柳生が尋ねる。
 「行くっす」
 怒ったように赤也が答える。


 病院までは、教師が呼んだタクシー二台に別れて乗って行った。
 病院までのタクシーでの二十分弱の間、誰もが無言だった。