「えーっっ?ユキとどっか出かけるの〜、真田副部長ず〜る〜い〜!!!!俺も行く〜」
 土曜日に部活を早く切り上げる俺に、文句を言う時だけ俺のことを副部長と呼ぶ、丸井が頬を膨らます。
 丸井は優しい幸村が大好きだ。
 「出掛けると言っても、図書館に本を借りに行くだけだ」
「でもユキとどっかに出掛けるなんてずるい〜。俺も行く〜」
「遊びに行く訳じゃない。リハビリを兼ねた外出の引率だ。幸村の外出には介護が必要だから俺がついていくんだ。俺は外出のために、病院で看護婦さんからちゃんと介護の心得も学んだ」
「俺も介護する!!!」
「お前はウルサイから駄目だ。大体、お前、図書館なんか嫌いだろう」
「えーなんでー!!! 静かにするよ!!!みんなで一緒に行こうよ!!!な?」
 丸井が部室にいたレギュラー陣に声を掛ける。
 「幸村部長の病気には、疲労が大敵だ。皆で騒いで押し掛けない方が良い」
 冷静に柳が答える。
 「通常は真田に外出許可の引率はお願いすることにして、どうしても真田の都合がつかない時、俺か柳生のどちらかが代わりに引率することにしよう」
 柳のその言葉に丸井以外の全員が頷く。
 「なんで俺じゃ駄目なんだよ!!!」
 丸井が腕を振り回す。
 「お前は元気過ぎる。
 それにお前じゃ、幸村部長が倒れた時に、運べない」
「運べるよ!!!」
「緊急時には冷静な判断力が要求されるからな。
 柳生、今度見舞いに行った時、俺と一緒に幸村部長との外出時に何に気をつけたら良いのかを教えて貰ってこよう」
 柳生が無言で頷く。
 「冷静な判断力〜?副部長、何でも先に手が出るじゃん!!! 全然冷静なんかじゃないじゃん!!!」
 丸井が俺を指差して訴える。
 「大丈夫だ。副部長はこれでも殴って良い相手と駄目な相手の区別はついてる」
 それまで黙っていた桑原がぼそぼそと呟く。
 「なんだよそれ!!!フォローになってない!!!」
「しゃーないじゃん」
 仁王がクールに丸井を慰める。
 「………部長も副部長の真田にしか言えないこともあるだろうからな」
 柳生が腕を組んだまま独り言のように呟く。


 柳は、部の士気を意識して、部員の前では幸村のことを幸村部長と呼ぶ。
 二年生の冬から学校に来なくなった部長の幸村の代わりに、副部長の俺を部長にしよう、という話は一度も出ない。
 立海テニス部の部長は誰がなんと言っても幸村で、俺達は固く結束している。



 部長を決めたのは、三年生が引退した二年生の秋だった。

 「はいはい!!!部長はユキが良いと思う〜」
 ムードメーカーの丸井が手を上げて言う。
 「で、真田が副部長。だって、真田、ユキの言うことだけは聞くもん」
 そう言って、丸井が大口を開けて笑う。
 幸村は困ったように笑っていた。
 それで満場一致で決定だった。