幸村先輩が真田先輩と打ち合ってる。
 普段は超キューティな幸村先輩だけど、真田先輩とやるときはちょっとモード変わる気がする。きりっとして目がちょっぴしきつくなってんの。
 真田先輩はめちゃくちゃに強くて容赦ない。態度がでかくてムカつくけど、あれだけ強いと文句言えない。豪腕っつーか、ものすげえパワーテニスで、必死で返しててもどんどん後ろに押されちまう。オレがもうちょっとガタイが良くなったら負けないけどなあ。
 幸村先輩は真田先輩にくらべたら、全然ちっちゃくて華奢っていうか、女の子が男と試合してる感じ。でも、いつも互角に戦ってる。幸村先輩は前後に振って走らせるのが得意で、抜群のコントロールでオンラインに落として真田先輩をがっくりさせたりしつつ、いつの間にか優勢だったりするんだ。マジックだよ。
「すっげー、チャーミング、幸村せんぱい……」
 オレはうっとりしてしまった。仁王先輩がオレのそばでウィンクした。
「赤也もユキファンなんじゃの」
「あったり前でしょー! 先輩みたくカワユイ人、初めて見たッス。あんなカワユイ人いないッス」
「ユキとつきあいたい?」
 丸井先輩がニヤニヤして言う。
「モチ、つきあいたいです! いつか告るッス!」
 オレは言い切りました。だってマジだもんよ。
「おー、いいぞ、がんばれ赤也」
「先行き楽しみですね」 「ファンクラブ入れ」
 先輩たちはみんなニヤニヤしている。ちぇ、本気にされてねえや。柳先輩がデータ帳を開いて「切原はファンクラブ会員番号6番」って言った。オレは年会費500円を徴収されて財布が空になった。どうなの、これってイジメ?



 今は先輩のそばにいれるだけでシアワセだけど、いつか絶対、あのヒトをものにするぞ。
 そう決意しながら、オレはロッカーの鏡の前で髪をとかしてる先輩を見つめてた。
 オレの視線がちょっと厚かましすぎたのか、幸村先輩がちょっぴしフシギそうに「どうしたの、赤也?」って言った。あの、カワユイ首かしげポーズで。
 ドキドキする。やばい、マジやばいよオレ。
「なに?」
 先輩は目をまあるくして、オレを見てにこって笑ってくれた。今だ、言うしかない!
「幸村先輩が好きです! つきあってください、オレと!」
 オレの爆弾発言に、先輩はぱっと赤くなって、えー、と言いながら笑ってもじもじしてる。
 やられた。もう、生きた心地がしねえ。あまりのカワユさで気が遠くなりそう。
「どうしよう、赤也に告白されちゃった」
 先輩の視線はオレの頭の上を通り越して、あっちを見てる。あれ?と思って振り向くと、
「…………切原」
 どっから湧いたのこのヒト! 真田先輩がオレの後ろで、地獄の番犬みたいな顔して突っ立ってんの。うわー、オレの今のこの状況って、ラストダンジョンをクリアしてやっと姫に会えたぞって思ったら、「遅かったな」って真のボスが出てきた感じ?
「幸村にはもう、つきあっている相手がいるから、お前が割り込む余地は微塵もない。諦めろ」
 こ、コワイ! 真田先輩の目が死ぬほど怖い!!!
 怖すぎて頭が真っ白になり、「わかったらさっさと帰れ」と言われておとなしく出てきちゃった。オレのバカ〜! ヘタレ〜! 根性なし〜!
 誰なんだよ、幸村先輩のつきあってる相手って! それを聞かずに諦められっか!
 こういうときはデータ魔の柳先輩だ。
「え? 誰がそんなこと言ったんだ? 幸村につきあってる相手がいるって?」
「真田先輩っすよぉ〜! アンタら、ファンクラブ作ってるくせに知らないんスか!」
「へーえ……」
 柳先輩はすっごく面白そうな顔をして、くくく、なんて笑い出して、わけわかんねえ。
「そういうことですか。ふーん、やっと、そういうことになったわけね。やれやれ、お疲れ様」
「柳先輩、ちょっと、何なんスか? オレ、まったく理解できてないんスけど」
「ファンクラブは幸村と弦一郎を見守る会なんだよ。あの二人をくっつけるために結成したのさ。勿論、会員は全員、幸村のファンだけど、本人の幸福を一番に願ってるからね」
「え、あ、あの……幸村先輩は、真田先輩がスキなんですか……?」
「見てりゃわかるだろ? まあ、それに、お似合いだしな」
 う……ショックでかすぎ。
 オレ、もう立ち直れないかも。よりによってあの真田先輩かよ! あの鬼がオレの死刑執行人かよ! 世界は終わった。さようならオレの愛しい御方。
 涙目になってたら、柳先輩がにんまりしてオレの肩をたたいた。
「でもな、自分のほうが幸村をしあわせにできると思うなら、いつでも立候補していいんだぜ。そういう趣旨の会だからな」
「そ、そうスか? なら、オレ、諦めないッスよ!」
「ちなみに俺も諦めてないのでよろしくな、同志よ」
 アンタって人は……それより、500円返せ!