【本作は、まりかがこのサイトを始めたばかりの頃に練習として書いてみたもので、その後習作フォルダの片隅に放置されてました…。今さらながらお目にかけます。】



 オレは憧れの先輩に、恋をしてしまいました。
 だってよ、先輩はめっちゃカワユイんだもん。
 顔がカワユイだけじゃない。しゃべり方とか、ちょこっと首をかしげるしぐさとか、どぎまぎしちゃうほどカワユイの。
 どーしよ、もう、これってマジ恋だよな。
 最初は先輩に、いいとこ見せちゃおと思ってた。はばかりながらオレにテニスで勝てる奴なんて、そうそう転がっちゃいねえぜ。なんたって幼稚園からやってんだかんね。同じ学年でオレ様、この切原赤也にかなう奴はいませんよ。
 でもさ、1年生で一番うまいってことになって、調子こいてたら、先輩が来てさ、
「赤也はすごいね。ちょっと手合わせしようよ」
 いきなしそう言ったから、オレ、きゅーんってなっちゃってメロメロだったの。激ダサ。
 そう、オレの憧れの幸村先輩は、めっちゃカワユクてそのうえめっちゃ強えの。
 ズルっこいよな。あんなにキューティで最強なんてさ。
 オレ、絶対先輩にいつか勝つ。そんでもって勝ったら絶対言うぞ。
 つきあってくださいって言っちゃうぞ。
 先輩は男だけど、そんなのどーでもいいの。カワユイから。



「赤也、なんじゃいお前、この英語8点っちゅーの?」
「ひっでー、勝手にヒトのカバンから出さないでくださいよ!」
 オレが着替えてたら、仁王先輩が来て余計なこと言うの。
 中間テスト、すっげームズかったんだもん。勉強もしなかったけどさ。
「8点かよ! 俺の1年のときよりスゲエな。どれどれ…お前、字きたねえな。読めねえよ」
「丸井先輩まで! 返してくださいよう」
「一桁とは…どうやったらそんな点数が取れるのか、限りなく謎ですね、切原クン」
「知らないぞ。うちは成績の悪い奴はレギュラーに上げてもらえないぞ」
「マジすかぁ〜」
 オレ、自慢じゃねーけど英語は本気でダメなの。アルファベット見てるだけでムカついてくる。
「ねえー、桑原先輩、今のマジ?」
「知らないけど、そういうウワサ。だって幸村も真田も柳も、勉強できるだろ?」
 そうだよね。うちにはAレギュラーとBレギュラーの2チームあって、2年生でAレギュラーに入ってる3人は桁外れに強い。そんでもって、成績もめちゃんこいいの。廊下に貼り出してあったの見てギャーってなったよ。柳先輩ときたら2年の首席だし、幸村先輩と真田先輩も10番目くらいまでに入ってんだもん。
「ズルイよなあ……」
「なにがずるいの?」
 ひえっ! 先輩、不意打ちはカンベンっすよぉ。
「赤也、英語苦手なんだ。でも今のうちなら取り戻せるよ、見せてごらん?」
 幸村先輩はオレのテストを両手で持って、ちょこっと首をかしげた。やべえ。すげえカワユイ、ハート直撃、超ド級にブリリアント!
「……まず、もうちょっと字はていねいに書こうね」
 先輩はオレのテストを赤ペンで直してくれた。オレは先輩の横顔をじーっと見つめてた。なんであんなにまつ毛が長いんだろ。見てるだけでときめいちゃう。やっぱこれって、恋だよね。
「次のテストは、がんばろうね」
 にこ、って笑ってそう言われて、オレ、思わず言いたくなっちゃった。
 先輩大好き! オレとつきあってほしいッス!って。でも、ドキドキしちゃって口がまわんねえの。
 テストを折りたたんで生徒手帳にはさんでお守りにした。先輩のためなら、英語でも中国語でもアゼルバイジャン語でもやるッス、オレ。