俺は、人をビックリさせるのが趣味だ。驚かせることを生き甲斐にしている。人に驚いてもらうのが何よりの楽しみだ。心の底からワクワクする。
 だが柳生は今までにもう、さんざん俺にビックリさせられてきているので、簡単なことでは驚いてくれない。今まで驚かせすぎたせいか最近、逆にパターンを読まれちまってる節さえある。ヤバいな、ここらでまた一発ガーンと驚かせとかないと、俺の名がすたると思い今日は気合を入れてビックリさせてやることにした。
 柳生は上品で夢があってロマンチックなものが好きだ。なら、あそこしかないと思って、朝のうちに内緒でレストランに予約を入れておいた。これにはあいつもさすがにぐっときたようだ。「こういうことですか…」と目を丸くする顔を見て、俺は内心ほくそ笑んだ。キャンドルライトが煌めくブルーバイユーは、サプライズデートにはお誂え向きの場所だった。久しぶりに出し抜いてやったぞ。実に気分がいい。飯も美味い。
 水路を滑っていく船のほうを眺めながら、「私はいつも、仁王くんに驚かされてばかりですね」とあいつがつぶやいた。少し、淋しそうだったので気になった。
「俺は、お前の驚くのを見るんが、好きなんじゃ。驚いてくれんと、面白うない」
「でも驚いてばかりで、いつまでたっても、貴方をあまり理解できていないような気がするんです。貴方はまだ、私に見せてくれたことのない引き出しを、沢山隠しているでしょう? …貴方とお付き合いしてもう、随分になるのに」
 そう言って柳生は頬を染めた。おつきあい、なんて言葉をお堅いこいつの口から聞けるなんて。驚かせたつもりが、俺のほうが意表を突かれていた。俺はしばらく考えて、揺れるキャンドルの炎を睨みながら、やっと答えた。
「お前に驚いてもらうのが、一番嬉しい。だから、これからもずうっと、驚いてもらわんといかんのじゃ、柳生には」
「ずうっとですか?」
「そう、ずうっと」
 俺がうなずくと、あいつは両手を胸に当てて「心臓が持たないかもしれません」と微笑んだ。
 実に気分がいい。こんなにワクワクしたのは久しぶりだ。