キスしようよ、と誘うと、きみはすごく不機嫌そうに「駄目だ」とか「冗談じゃない」とか答えて目をそむける。
 どうして? 誰も見てないよ?と言ってもきみは、そういう事はこんな所でするものじゃないだろ、とか、見てるとか見てないとかの問題じゃない、とか、なんとも苦しい言い訳を唱えて僕をにらむ。そしてしばらくたってから、困らせるなよ、とため息をつく。
 そんなこと言うけど、病院と学校はそう違わないと思うよ。僕らは幾度も非常階段のてっぺんとか、暗幕をひいた理科準備室とかで密やかに唇を重ねたし、お互いが欲しい気持ちが抑えられなくて、みんなが帰ったあとの部室で内緒で愛しあったことだってあるじゃない。
 あの時は大変だったな。思い出すと、恥ずかしいけどおかしくなる。あんなに切羽詰まったきみを見たことがあるのは多分僕だけだ。そして僕のあんな、夜中に猫が塀の上で出してるみたいな声を聞いたのもきみだけ。途中まで本当に必死で堪えたんだけど、我慢できなくて叫んでしまった僕をきみは、後ろからきつく抱きしめてくれたよね。
 きみは、後悔しているのかな。僕の身体を穢して自由を奪ったとでも、思っているのかな?
 僕は後悔することもある。きみの心を盗って縛りつけ、こんな遠いところから鎖につないだ。どんなにきみが僕のことを想ってくれてるか、考えると申し訳なくて、自分を消してしまいたくもなる。
 冷たくなってしまった僕にお別れの接吻をくれるきみを想像すると、一人きりのベッドのなかで涙があふれる。
 夢で逢うことができたとしても、魂だけになってしまったら、もう触れあえないんだよ。
 だから僕に、きみの愛をみせて。温かさを感じさせて。